時の羅針盤・188
時の羅針盤・188
内なるサイクルを回す
高橋佳子
日々の要請
今月は11月──。今年も残すところ、あとわずか2カ月となりました。「気がついたら、もう11月になっていた」という方も、きっといらっしゃるでしょう。それほど、私たちの日常はめまぐるしいものです。
朝起きてから夜寝るまで、私たちの前には、応えるべき様々な要請がやってきます。
毎朝、会社に着くと、昨日までの仕事を振り返り、今日の予定、仕事の段取りを考える。報告書や企画案を作成し、さらにいくつもの会議に出席。ときには取引先を回って、新たな製品の売り込みや事業の協力を求めることもあるかもしれません。
業種や業務によって違いはあれ、次から次へと応えるべきことがやってくることには変わりないでしょう。
また、あなたが学生でも、日々の授業、実習や実験と、様々な要請に忙しく応えていることに変わりないでしょう。
明在系と暗在系の人生の道
しかし、どんなに忙しくしていても、日々の要請に応えるだけでは、私たちは、人生の意義を深く感じることはできません。あたかも表層の現実を漂っているかのごとき人生では、本当の意味で心が満たされることはないのです。
今、振り返った私たちの日常──。どこに住んでいて、どの会社に勤め、何の業務に追われ、何時の何という会議に出席して、取引先の何という会社に出向いたのか……。
ここで取り上げた現実の次元の日常の1コマ1コマ──。そこにあるのは、具体的に何が起こり、どんな結果になったかを、明示的に、はっきりと書けることばかりです。
つまり、現実の次元で起こることは、誰から見ても、陽光の下に照らし出されたもののごとく、明々白々な出来事であるということです。その意味で、この現実の次元、現象界の次元は、「明在系」と呼ぶことができるものです。「明在系」とは、人間に明らかに認識される、外側に広がる世界を指す言葉です。
一方、それに対して、私たちの内側で起こることは、あたかも夜空の月の光によってかすかに照らし出されるかのごとき活動で、「暗在系」と呼ぶべきものです。
私たちが日々要請に応え続けている足跡──。それは、言うならば、「明在系に刻まれる人生」でしょう。
であるならば、私たちには、もう1つ、「暗在系に刻まれる人生」というものがあるのです。
それは、私たちが、その人生を通じて、心をどのようにはたらかせ、魂に何を刻んできたのか。さらには、その1回の人生を超えて、魂がどのようにその転生を歩んできたのか。魂が抱いている光と闇がどのように現れ、どのように進化と成長を果たして、自らのテーマに応えてきたのか。心と魂の活動によって、いかなる見えないつながりが生まれ、それが広がってきたのか──。
重要なことは、この「暗在系」の人生の道に応えて初めて、私たちは人生の意義を深く感じることができるということです。人生の深層を生きることを通じて、私たちの心は本当の意味で満たされるということなのです。
内なるサイクルを回す
そのために、私たちに必要なことがあります。
人類は20世紀以降、科学技術によって、大きな進歩と豊かさを手にすることができました。それはいわば、物質世界を探究する「外なるサイクル」を回し続けた結果と言うことができるでしょう。
しかし、では、精神世界を探究する「内なるサイクル」は? それは、ほとんど回すことがなかったと言っても過言ではありません。
そのアンバランスが個人の人生を表層に押しやり、深い生きがいや人生の意義を奪ってきたのではないでしょうか。
それだけではなく、今、人類が抱える様々な問題──環境問題や格差の問題を引き起こしていると言えるでしょう。
私たちは、今こそ、「暗在系に刻まれる人生」に目を向けなければなりません。そうすることで、まず私たちから、「内なるサイクル」を回し始めなければならないと思うのです。
2019.10.25