時の羅針盤・184
時の羅針盤・184
いのちを燃やす
高橋佳子
法則に従う自然の営み
今年も暑い夏の季節を迎えました。
近年、地球温暖化に伴い、わが国の気候が亜熱帯化していることが指摘されています。ますます暑さが厳しくなることが予想される今夏、皆様には、夜間を含めて、くれぐれも適切な水分補給と空調による温度管理に留意していただきたいと思います。
夏の暑さ──。それは、生命の営みの激しい燃焼のようにも思えます。そしてだからこそ、今月、私たちは、自然の生命の営みに想いを馳せながら、人生のことを学んでみたいと思うのです。
皆様の中には、柔らかい生命のつながりによって生まれている自然の営みを、宇宙・自然の法則に則った壮大な機械仕掛けのしくみと理解している方もいるでしょう。
毎朝、東の空から昇って、夕方、西の空に沈む太陽の動きも、山間の泉からあふれた清水が岩を伝って、やがて川の流れをつくることも、竹林の中で地中深く根を張った茎から、大地を割って若芽(タケノコ)が出ることも、またたく間に田畑の作物が生長してゆくことも、風そよぐ中で聞こえてくる葉ずれの音も、確かにすべては、自然の法則と表裏一体の営みです。
そこには、大自然の秩序と摂理に反するものは何1つありません。すべては、理のままに、法則に従うことで生まれているものです。
だからこそ、大自然の営みを機械仕掛けのしくみにたとえることも、あながち間違いだとは言い切れません。
自然現象はいかなるものであっても、その裏には、大自然の法則が透徹していて、すべてを支えているということです。
軌道を凌駕する人間の営み
しかし、そのような普遍の法則によって成り立つ精緻な自然が、ときとして、想いもかけない姿を現すことがあります。機械的に寸分の狂いもなく組み上げられた軌道からはみ出て、それを超越するような光と力を示すことがあるのです。
見渡す限りの水平線から姿を現す太陽の光の圧倒的な美しさ、紅葉の季節、深まる秋の夕日の中で山一面の紅葉が見せる、燃えるような輝き──。そのような瞬間に立ち会ったとき、私たちは、大自然の営みが持つ底知れぬ潜在力と神秘を感じ取っているのです。
では、私たち人間は、どうでしょう。
自然の営みは、私たち人間の営みの土台とも言えるものです。つまり、私たち人間の営みもまた、大自然の法則に支えられている──。それは、何ら変わりがありません。
人間もまた、大自然の法則に従うことによって、生きてゆくことができる──。その法則に逆らうならば、たちまち生き存えることも、何かを成し遂げることも、大きな壁に阻まれてしまうことになります。
けれども、自然が徹頭徹尾、法則通りに営みを続けながら、ときに法則が示す軌道をはみ出し、それを超える現実を生み出すように、否、それ以上に、その軌道を凌駕する営みを現せるのが人間です。
人間は、大自然の摂理と秩序に従いながら、かつて自然が示すことのなかった現実を生み出すことができるのです。
様々な違いを超えて結び合う強い絆、痛みや弱さを抱いた存在への思いやり、希望の未来に向かう志の共鳴、不足や矛盾から新たな次元を導く創造──。それらはいずれも、人間でなければ生み出すことのできない、美しく、力強い現実です。
いのちを燃やす
私たち人間1人ひとりの中には、どんな人にも、その人や周囲の人たちが気づいていないような光が秘められています。
私たちの人生には、どの人生も例外なく、想像を超える希望が託されているのです。
その光と希望を現実にするには、私たちに与えられた時を尽くして、私たちに内在する「いのち」を燃焼させなければなりません。
「いのち」とは、生命であり、願いであり、目的です。自然が生命の営みを燃焼させているかのように見えるこの季節、ぜひ、自らの内なる「いのち」を完全燃焼させることに向かってゆきたいと思うのです。
2019.6.25